ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

後ろ足をピンと伸ばして(ss)



尾獣狩りの道中、慣れない土地で悪天候に見舞われた俺たちは、どんどん降り積もる雪を漕ぎながら山道を進んでいく羽目になった。向かい風が硬い雪を容赦なく吹きつける中、顔面をさらしている相棒は、もはや文句も言わず俺の右側やや後ろを必死の形相で歩く。俺たちのコートには雪が重く硬くへばりついている。濃い灰色の空がさらに暗くなり、俺は日没が近いことを知る。そろそろ野営をする場所を探さなければならない。と、疲弊しきっていたはずの相棒が突然俺の前に進み、あたりを見回したかと思うと、湯の匂いだ温泉があるぜ、とかすれた声でわめいて道から外れ、腰まである雪の中を泳ぐように歩き始めた。俺はちょっと様子を見る。無駄足はごめんだからだ。相棒は構わずどんどん進み、俺からは見えない境目に達すると、ヒャッホーと叫んで宙に飛んだ。かすかな水音を確かに聞いて、俺も相棒のラッセル跡を踏んでいく。はたしてせり出した岩棚の下にはそこだけ黒い土がひろがり、いびつな天然の岩風呂からはもうもうと湯けむりが上がっている。相棒は着衣のまま湯の中に座り込んでおり、上機嫌な笑顔で俺を見上げる。コートは再び黒く赤くなり、相棒の顔も紅潮していて、先ほどまでの灰色と白色ではなくなっている。早く来いよォ角都ゥ、と相棒が暢気に呼ぶ。お前その服はどうするつもりだ。服ゥ?後で干すさァ、どーせ脱いでそのへん置いたって雪まみれになるだけじゃねーか、埋もれてなくなっちまうかもしれねーし。ふむ、と俺は考える。確かに一理ある。それにこの雪の中で野営地を探してもここ以上のところはあるまい。心を決めた俺は岩棚を蹴って相棒の隣へ飛んでいくことにする。野生の獣のように美しかった相棒のフォームを真似て。