ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

当て馬(ss)



珍しく飛段が食料を調達してきた。鎌のワイヤーを首に巻かれた馬はもともと人に飼われていたのだろう、暴れもせずに飛段の後を野営地までついてきたのだった。屠ろうと鎌を構える飛段を角都が止める。今はまだ糧秣もあるし次の宿場までの道は遠い、これは今食わずに陸運に使い、食料が尽きたらそのときに食ったらどうだ。肉によだれを垂らしていた飛段は渋ったが、考えてみれば角都の論が正しい。折れた飛段をその夜角都は可愛がり、翌朝馬上の人となるときも景色の良い前の席をゆずってやる。単純に喜んだ飛段だが、背後の相棒が自分の尻に股間をこすりつけてくるので「めでたさも中くらいなり」の心持ちとなる。こすりつけられるのが嫌だったのではなく、自分がこすりつけたかったのである。農耕用だったらしいその馬は男二人を乗せてもまったく堪える様子もなくぽくぽくと道中を行き、数日経ったころにはその便利さになじんだ飛段は馬を食べることなど考えられなくなっている。ある日、飛段が草を食べる馬の頭を撫で、馬もおとなしく撫でられているのを見た角都は、たまたま通りかかった旅人に馬を売ってしまう。マジでそいつ売るのかよ、と言っただけの飛段は手ひどい折檻を受けるが、暴力の理不尽さよりも相棒の容赦ない怒りの方に驚きを覚える。何をそんなに怒っているのか皆目わからない。なぜ悲しんでいるような声を出すのかも。