ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

寒くて少しだけ暖かい話(ss)



不動産屋のガラスにびっちりと賃貸情報が貼られている。換金所の外で相棒を待ちながらそれを眺めていた飛段は、「月極」という言葉に引っかかる。北極も南極も角都に教わったが月極は聞いたことがない。飛段は思いを巡らせ、月の北極と南極のことだろうと推測する。きっととても寒いところだろう、クマやペンギンぐらいしかいないかもしれない、つまり「月極」は「とても寒い環境」を示す言葉に違いない。これを飛段は出てきた相棒に話し、誤解を徹底的に正される。けれども一度しみついたイメージは拭いがたく、凍てつく月面に立つクマとペンギンのイメージはその後も飛段の脳裏を去らなかった。寒く過酷な環境でクマとペンギンは並んで立ち、青く丸い星を見上げているようだった。