ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

敵、ではない(TEXT)

ぽつぽつ書いてたらまとまりがつかない変な話になりました…;;
角都は天然のタラシだといい。



 角都は殺しが好きなわけではない。金のために戦っている。欲しいのは相手の死体なのだが、都合よくそれが道に落ちていないので殺すだけの話である。
 飛段の方は少し状況が違う。殺人は彼のミッションで世界を改善するための手段である。どうせだから楽しみたい気持ちも存分にある。効率を重んじる角都からすると無駄が多い。角都も飛段もその方法に長けている、ということだけが共通している。

 二人を狩ろうとする者もけっこういる。角都も飛段も賞金首なのだ。この場合、相手も賞金首であることが多いので角都が喜ぶ。以前、お尋ね者集団と出会った時に、角都は「カモネギだ」と呟いて飛段を呆れさせた(二人を見たお尋ね者集団たちの表情からも「カモネギの喜び」がうかがえて飛段はうんざりした)。体を損なわないようにきれいに殺すことも、死体を換金所まで担いでいくことも、教義には無関係で飛段にとってはストレスになる。死体が複数ならストレスも倍増だ。
 二人は常に殺す側だが、一方、殺された側にも立場があるわけで、稀にその家族や友人と名乗る者が二人の前に現れることがある。

 いかがわしい店が並ぶ通りの雑踏で、飛段は中年の女を突き転ばせて短刀を持つ手を踏んだ。女の薄い服がめくれて太腿に装着した武器があらわになった。
「オイオイオイ危ねえなあ、そんなもん振り回して当たったら痛ぇだろーが、ああ?」
 ついさっきまでオッパイ押しつけてきやがったのになんだコイツ、と脇に立つ相棒に問うと、角都は女の歪んだ顔を見ながら「仇打ちだろう」とそっけなく答えた。
「前に殺した奴の連れだ。放してやれ」
「ハァ?冗談だろ?こいつオレらの敵じゃん」
 飛段が鎌を女の首に当てると、遠巻きに見ている者たちから「ひゅっ」と文字通り息をのむ音が聞こえた。
「敵ではない」
「ハァ?」
「俺たちはそいつの敵だろうがな」
「テメーわけわかんねーよ」
「放してやれ。恨みを持つものは後に賞金首に育つことがある。無駄にするな」
 それってどんだけ気が長い話だよ、こいつもうババアだぜ、と言いながらもやる気を失った飛段は鎌を引いた。倒れたままの女を憂さ晴らしに蹴りとばすが、もうそのことはどうでもよくなっていて、人混みに消えつつある相棒の背中の方に注意は向いている。
「じろじろ見んじゃねー、どけやコラ!屠るぞ!おい角都ゥ待てよ…」

 目的地へ着き、目的の情報を得、野営地を決めてからも、ずっと飛段は視線を右上に飛ばし頭をわずかに左へかしげていた。考え込んでいることは傍目にも明らかだったので、就寝後に背を合わせて寝ていた飛段がいきなり問いかけてきても、角都は驚かなかった。
「じゃあよ、敵ってなんなわけ?オレらがしょっちゅうやりあってるあいつらは何なんだよ」
「俺にとっては金づるだ」
 そんなこと訊いてねえ、と飛段が焦れたが角都は続けた。
「別に憎くて殺しているわけではないからな。換金できるかできないものに過ぎない」
「…まあ、別にオレだって憎くはねえけどよ」
「あの女はずっと憎んで、待っていたんだ。俺たちを」

 飛段は、あー、と気の抜けた声を出した。腑に落ちたらしい。これで眠れると力を抜いた角都は、耳元で騒ぐ声に背をひきつらせた。
「そーかぁ、オレら敵だから殺してるわけじゃねーもんな!いっつもそいつのこと、あーしてやるこーしてやるってゲロが出るぐれー考えてねーと敵じゃねーってか!わーったぜ!」
 ゲハハと続く笑い声は裏拳で止められた。飛段はしばらく黙っていたが、角都の呼吸が深く安定すると、あの女は確かに敵じゃなかったな、と静かに独りごちた。

「そんなしちめんどくせー相手、角都だけで充分だぜ」