ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

けちんぼ(TEXT)

「では出かけるか」の続きです。工夫もなくセリフばかりの安易で短い文です。
ええ、はっきり言ってほんとに駄文です…。書いてては楽しかったんですが。
アニメの角都を見ていると、こいつ絶対に飛段に手なんか上げないんじゃんないかと思います。


 出発後、何の気なしに金の件を蒸し返した飛段は、それから延々と経済の講義を聞かされる羽目になった。角都によると、暁という組織には軍事と外交と経済の三本柱があり、長期的に見れば経済が一番確かな影響力を持つということだった。
「金で殺しはできねーだろ」
「金の流れを止めればその国は死んだも同じこと。俺たちが動くより効率がいい」
「じゃあオレたち何のために尾獣なんか集めてんだ?金の方が集めやすいじゃねーか」
「一時的に見れば、金よりも軍力の方が効果が早いからな」
 飛段には納得がいかない。金なんて使えばなくなるし、なくなったらそれまでのものだ。そんなものよりこの鎌の方がずっと確かな力を持っているんじゃないか。もちろん軍事の力もあなどれない、と角都は言う。
「だが軍力も金で買える。金の方が上だ」
「尾獣は売ってねーぜ」

 尾根伝いに二人は移動を続けた。山はさかりの紅葉で明るく彩られ、空気も輝くようである。飛段は歩きながら乾いたいい香りのする落ち葉を蹴上げた。
「おう、金でいろんなことができるってのは認めるぜ。でもよォ、金さえあれば何でもかんでもできるってわけじゃねーだろ」
「俺が、飛段、お前のものだと仮定してみろ。誰かが俺を買いに来る。売るも売らないもお前の自由だ」
 飛段は頷いた。角都を所有するというのは気持ちのいい考えだった。
「お前は俺に好きな値段をつけることができる。値が高すぎると思えば相手は買わないか、金以外の方法で支払いをする。それは土地かもしれないし何かの権限かもしれない。その土地や権限はそのうち莫大な利益を生むかもしれない。金はただの紙切れではないぞ、使いようによっては増やすことも」
「オレが角都を買い戻したくなったらどうするんだ?」
 言葉を遮られて、角都は飛段の顔を見た。飛段は繰り返した。
「オレが角都を買い戻したくなったらどうするんだ」
「…新しい持ち主と交渉しろ。値段が釣り合うと思ったら買い戻せばいい」
「オレが支払えなかったら?」
「いい質問だ。世の中には市場があるから俺と同程度の忍を探して買えばいい」
「そりゃ角都じゃねーぞ」
「役割を果たしさえすれば同じことだろう」

 飛段はなんだか悲しくなってきた。角都は自分のことを取り換えのきく忍具か何かのように言う。いやな話だ。
「やっぱオレ、金きらいだわ」
「好き嫌いの話をしているのではないぞ、経済の、」
「いいって!オレは大事なもんぜってー手放したりしねーし、そうすりゃ買い戻すこともねーからな!欲しいもんは力ずくで奪うしよォ!」
 呆れた、という表情で角都が相棒をいさめようとした。
「利己的な奴だ。そういうケチな考えは経済を停滞させる」
「じゃあよォ、もしも、もしもオレが角都の持ちもんで、誰かが買いてぇっつったらおめーは売んのかよ!ああ?」
 角都は少し考えて、頷いた。
「売る」
「ハァー?!」
「高値で売る。売って金を受け取り、どこかでお前が逃げ出してくるのを待つ」
「…逃げられなかったらどうするよ」
「俺が取り返しに行く。力ずくでな」
 お前を買いたいなんて酔狂な奴がいればだがな、と続けた言葉は下品な笑い声でかき消され、そのうちにどちらかが何かを話し出し、どちらかがどちらかを殴ったりして、それはそれで終わったのだった。