ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

温泉賛歌(ss)



遠路を移動した帰り道のことだ。角都おめーひとっ風呂浴びたらどうだ、あの辺掘りゃきっと出るぜ。そう言いながらこちらを見た飛段はふと苦笑したようだった。俺はわかりやすく嬉しそうな顔をしてしまったらしい。水遁による洗身では物足りなくなってしまった自分の甘えを見透かされたことは不本意だったが、俺は意地を張らずに穴を掘り、湧いてきた湯にありがたく浸かった。少しぬるいが、とろりとした褐色の肌ざわりの良い湯である。まったくジジィは温泉好きだよなァなどと言いながら自分も入ってきた湯忍に、これはどういった温泉なのか尋ねると、火傷や傷に効くやつ、とすらすら答えた。そして、つまらなそうに湯をかき混ぜながら、あったまるだけならよォ食塩でも何でもよけいなもん混ぜりゃフツーの湯でも充分にあったまるぜ、温泉に入ってんのだって岩ん中のゴミみてーなもんなんだから、と乱暴なことを言った。なるほど真水からすればすべての成分は不純物なのだろう。そんなことを考える俺の股の間に、さぁて角都よせっかく服も脱いだんだしオレとおめーで湯の成分増やしてあったまるとするかァ、などとうるさく騒ぎながら飛段が割り込んできた。ニヤニヤと暴力を待つ顔に習慣で伸びた手を止め、殴るかわりにきつく抱き込んで黙らせると、俺は何かを悟ったような心地になった。すべてが計算に基づいて予測通りに進んでいく世界など面白みに欠ける。不純物の無い真水の世界はさぞ退屈なものに違いない。