ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

一人の夜(ss)

「ああぶざまだ、けどどうしても!」の前夜の話。



角都は濃紺の夜空に深く息をつき、久しぶりの自由を静かに味わった。組織に属することを選んではいるが、やはり自分は単独行動が好きだ。価値観の異なる他人に干渉されることなく自分だけの時間を好きなように使うという贅沢な気分は、しかし、待ち合せた情報屋が愛人を伴って現れたことで少々損なわれた。情報屋の女性は以前と変わらず有能であり、愛人も聡明な目をした寡黙な少女で、取引は滞りなく行われたのだが、その二者の間に流れる空気に角都はなぜか不快を覚え、別れしなに情報屋が控えめながら惚気るとその不快が苛立ちに変わるのを感じた。うつろうものに依存するとは愚かな女だ、と角都は考えた。他者に気持ちのつながりを求めるとは。つながるのは体だけで充分だろうに。自分のような孤高の人間には理解ができない。一人になった角都は、つい先まで身を満たしていた孤独の喜びに再度浸ろうとしたがあの万能感は戻ってこなかった。それどころか脚は勝手に帰路を急いでおり、もう宿はそこにある。せっかくの得難い一人の時間を無駄にするつもりか、と角都の頭脳は宿に入ろうとする己の体を引きとめ、抵抗する体と話し合った結果、宿の屋根の上で夜を過ごすことで妥協した。なんだか阿呆な感じもするが、孤高者の矜持を守るためならば仕方あるまい。相棒がバカな真似をしていないか窓からそっと覗きながら、角都はあらためて先ほどの情報屋を鼻で笑う。愛人の寝顔が可愛いだと?くだらん、実にくだらん。寝顔が可愛い者など掃いて捨てるほどいるのだ、ほらここにも。