ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

ひだんは からたけわりを くらった!(ss)



俺が自分の獲物を的確に狩ったのに対し、長い竹棒を自在に振り回す相手をもてあましていた相棒は手っ取り早く始末をつけようと相手の間合いに飛び込み、待ち構えていた相手に一発食らった。棒は鞭のようにしなって相棒の脳天から背を打ち据えるとばねのようにはじけ、術者はその反動で身を飛ばしてフイと消えた。鮮やかなものだ。味方が倒され不利になった時点で逃げを選ぶのは正しい判断だし、非力な女の身であれだけ得物を使いこなせればそのうち良い賞金がつくに違いない。感心しながら完全にやられたこちらの相棒を見れば、打たれた姿勢のまま頭を両手で抱えて盛大に顔を歪めている。無様な恰好と雄弁なその表情に俺は呆れる。棒で叩かれたぐらいで何だ。うるせぇ、ブッ刺さったり裂けたりするのはいいけどよ、こーいう地味な痛みはイヤなんだよオレは。言い返しつつそろそろと姿勢を起こした飛段がギッと呻く。コートがこすれたのだろう。見れば頭皮からうなじを縦に割り裂いたような真っ赤な痕が襟から覗いている。あの痕はどこまで続いているのだろうと俺はうっかり想像し、慌ててその考えを振り捨てた。こう暑くなってくると死体は早く腐りだす、くだらんことに費やしている時間はない。最寄りの換金所への道程を確認し、行くぞと声をかけて歩きだすと、テメーの金儲けのおかげでとんだとばっちりだとぼやきながらも相棒が追ってきた。並ぶなり、あークソ痛ェ!とわめいてコートを脱いだ相棒の背中に俺の目は釘づけになる。ますます赤味を増した太いミミズ腫れはとんでもないところまで及んでいるらしい…少なくとも上から覗き込むとそのように思われる。傍からは無表情にただ歩いているように見えるだろう俺の脳内でさまざまな思いが渦を巻く。打たれたところは熱を持っているのだろう、触れれば痛みの脈が感じ取れるかもしれない、舌を這わせたら相棒はどんな顔をするのだろうか、怒るか、笑うか、他の表情か、それにしてもたった一発を尻の間に決めるとは大した女だ、鮮やかな手並みと言っていい、いやまずは金、まずは金だ、わかっている、だが触れもしないままあの立派なミミズ腫れがただ消えていくにまかせるなんてひどくもったいないような気もする、もちろんまずは金だ、わかってはいるのだが。