ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

熱帯夜(ss)

さくま様のリク2「寝苦しい夜に相手を蹴落とす話」です。可愛いお題をありがとうございます。



シングルの空きがなかったので角都と飛段はダブルの部屋に泊った。安いホテルだったが部屋も調度もそれにふさわしいもので、このセミダブルという寝台にはいったいどのような体格の人間が二人で寝るのだろうと角都は訝しんだ。飛段は気にしていない。暑苦しいからくっつくなという無茶な注文にも動じず、ぎゅうぎゅうと体を角都に押しつけてベッドに収まると、満足げな吐息を一つついてすぐに寝入ってしまう。角都もそのまま休んだのだが、深夜、ひどい寝苦しさに姿勢を変えたところ、ゴッ、という音がして急にベッドが広くなった。汗まみれの半身を起こした角都はのぼせた頭で状況を把握しようとする。点けっぱなしだったはずの空調機が止まっている。停電か、それともホテル側の節電かもしれない。ぬるま湯のような熱気の中、角都はベッドから腕を伸ばし枕元の小さな窓を開いてみたが、かすかな温風が入るばかりである。いらいらと頭を掻き、そう言えばと自分が蹴落とした相棒の様子を覗いてみると、飛段は粗末な板材の床の上で転げ落ちた姿勢のまま熟睡していた。相手の鈍さに呆れながらもその頭を撫でてやった角都は、指先に感じた涼気にふと手を止め、自分も床におりてみた。ドアの下部の通風口から出入りする空気が床面を這う。冷たい空気はこんな狭い部屋でもちゃんと下にたまるらしい。決して清潔とは言えない床に角都はためらったが、ベッドから引き剥いだシーツを敷くことで妥協し、自分の分の枕と、ついでに相棒の体もシーツの上に移動させた。動かされて半ば目が覚めたのか、ふんふん寝言を漏らしながら相棒が頭を寄せてくる。まあいい、こいつの頭は軽いから腕にそう負担はかからないに違いない。そうしてベッドよりはるかに伸びやかな床の上で角都はやっと緊張を解き、遠かった睡魔をゆっくりと手繰り寄せる。