ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

回復期・続き(ss)

※「回復期」の続きです。



飛段はかたくなに灯りをつけようとしない。角都に触れることはおろか、あまり話そうともしない。ペインがよほど厳しく制したのだろう。指示が正しいことを知ってはいるが距離が歯がゆい角都は、小声で話しかけることによって相手の頭を自分のそばまで呼び寄せることに成功する。根が素直な飛段は角都に問われるまま、こちらも小さな声でひそひそと律儀に返答する。多分床に膝をついて上体をベッドに預けたのだろう、マットレスがいびつにたわみ、飛段の頭が角都の枕のすぐわきに据えられる。ううん別に何もしてねえよ、メシ?みんななんか持ってきてくれるけど動かなきゃ腹も減らねえし、おい勘違いすんなよ別にオメーの心配なんかしてねーからな、ちゃんと寝てるってェ、そういや前にオメーから聞かされた話のせいでひでぇ夢を見たぜ、オメーが死んだっていうからあの世まで迎えに行ってやったらよォ、いかにもお役人て感じのヤローが、角都にはオレの後ろをついて行かせてやるけどオレがいっぺんでも振り返ったら返してやんないなんてケチなことを抜かすんだ、オレ超迷っちまってさ、だってそのヤローが嘘つきかもしれねえし、そうでなくてもオメーが疲れてて、ちゃんとついてこられなかったら困っちまう、だったらオレも、あの世に、行ったきりでも、別に、いいかな、って。飛段の語尾はどんどん不明瞭になり、尻切れのまま途切れてしまう。すう、すう、と漏れる寝息を聞きながら角都は悶々としている。もっと近くに顔を寄せてくれていたなら少し無理すればキスぐらいできたのに、寝息は微妙に遠い。相棒のまごころに心打たれてはいたが、それと頭の中の邪念は別だ。角都の回復は実に順調だった。