ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

いそがしい死神(ss)

さくま様リク7「落語の死神」の小話です。これは難しかったです(笑)。うまく料理ができず、生の食材を皿にのせただけみたいになりましたが、お読みいただければ幸いです。



道端でボロを着た男が何か語っていた。角都待ちで退屈だったオレは聞くともなく聞いていたが、そのうち引きこまれた。角都が出てきたことにも気づかなかったほどだ。語りが終わると、チャリ、チャリと小銭を投げて立ち去る他の奴らにまじってオレもそこを離れ、今度はオレを待っていた相棒にあの話は何かと尋ねてみた。聞いたままだ、と相棒はそっけないが、よくわかんねーから訊いてんだと粘ると、フーと息をついて説明してくれた。死神から得た力で死神を出し抜こうとした男が欲のために命を落とす、いろいろな国で語られてきた普遍的な話だ、人と金の因縁や運命の可変性についても触れている、まあよくできた話だな。オレは曖昧に頷いた。ズルしちゃいけねえって話かと思っていたのに角都が言うともっと難しい話だったような気がしてくる。角都だったらどうするよ、と訊いてみると、金を取る、と当然の答えが返ってきた。そりゃそうだろう、訊いたオレがバカだった。その話はそれっきりだったんだけど、それからしばらくオレは変な夢に悩まされた。オレの目の前に五本のロウソクがあるんだが、油断すると一本、二本と消えるのだ。これを絶やすととんでもないことになるらしい。オレは恐怖し、せかせかと火を見張り、ロウソクが短くなると長いものを探して右往左往する。息もできない。そして、こんなことを続けていてもいつかはロウソクが全部消えるんじゃねーか、などと思うと悲しくなってオイオイ泣きながら目を覚ましたりする。うなされるオレから訳を聞いた角都が死神の話の別のオチを語って聞かせてくれるまで、オレの悪夢は続いたのだった。正直な話、今でもときおりあの夢を見る。そのたびオレは八五郎って奴を恨み、憐れみ、頼むからあの五本のロウソクだけは守ってくれとジャシン様や他のあらゆる神に祈るのである。