ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

江戸の仇を(ss)



角都がいなくなると依頼主が質問をしてきた。お前ら本当に不死なのか、それともフリをしているだけか。これを訊かれるのは珍しくないが、こいつの訊き方がいかにもバカにしてて感じが悪かった。こんな挑発にオレは弱い。おいおい疑うのかよォだったら試してみるかオッサン。で、奴は試した。オレは死ななかった。奴は更に試した。オレはやっぱり死ななかった。このころになると奴もムキになってきていて、血まみれのオレを椅子に押さえつけ馬乗りになって首を絞めてきた。どうしても殺すつもりらしい。死ななくても窒息は苦しいので、さてどこでこいつを振り落とそうかと考え始めたとき、相棒が部屋に戻ってきた。依頼主はちょっとうしろめたそうな赤い顔をし、オレの上からどいて、や、あんたらが本当に不死なのか確かめてたんだ、と言い訳をした。別にやましいことをしていたんでもないのに変な野郎だ。角都は特にオレたちを見るでもなく椅子に戻り(てめートイレなげーよ、というオレの言葉は無視された)、さっきから依頼主と飽きずに眺めていた紙切れにさらさらと何か書きこんだ。これがこちらの最終提示額だ、異論があるなら、言え。紙を渡された依頼主は何も言わなかったが、赤かったその顔が今度は白くなり、頬がこけたように長くなった。表に出たとき、あいつなんか死にそうな顔してたぜと言ったら、請負代に追加料金をつけたからな、と角都が言ったのでオレはなんだかおかしくなって笑ってしまった。いっしょうけんめいオレの首を絞めていたのに自分が金に殺されそうになっちまうなんてマジで笑える。でもよ、料金ふっかけたらあいつ仕事の注文取り消すんじゃねーか?フン、と角都が鼻を鳴らす。他に頼めるようなまっとうな仕事じゃない、それにあんなはした金、手に入らなくとも別に構わん。それを聞いたオレは自分が大切にされているのだと思ってしまい、突然とほうもなく幸せになってしまったのである。