ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

悪趣味な男(parallel)



仕事に出かけるたびに角都は不動産管理や株取引について飛段に説明した。飛段がそれに興味を示し、自分の片腕となることを望んだのだが、どうもそれは難しいのかもしれないと角都も認めざるを得なくなってきた。同居人としての家事分担はそれなりにこなせるようだったが、飛段の経済的能力は著しく低く、安い野菜を買うことはできても立地による坪単価の違いを理解することはできないのだった。それでも角都は飛段を取引に同行し続けた。秘書がいると告げた後、それを聞いた相手が秘書らしからぬ飛段を見てぎょっとする様子は面白かったし、移動の道中も退屈せずに済んだからである。今日も駅のプラットフォームで飛段がぶつぶつと文句を言うのを角都は涼しい顔で聞いていた。なんだってこんな時間に電車に乗るんだよ、混んでんのたりめーだろ、時間ずらすとかタクシー使うとかあんだろが。お前はまったく無駄が多いな、と角都は返す。金も時間も限りがある、安易に費やすな。話す間に二人の目の前に人が詰め込まれた車両が滑り込んでくる。おいおいマジかよと飛段はぼやくが、角都がさっさと乗り込んでいくのを見てしぶしぶ後に続く。角都も飛段も上背があり、ラッシュの中では有利な立場だが、それでもギチギチの圧迫感からは逃げられない。飛段は周囲の非難がましい視線の中で奮闘し、角都を壁際に押しやる。そして角都の両脇に自分の腕をついて連れがつぶされないよう懸命に守ろうとする。心臓が悪い高齢者を庇っているつもりで、結局は誰かの体ではなく自分の体を角都に押しつけているにすぎないのだが、それには気づかないらしい。列車が分岐ポイントを通過し、一斉に傾く重量の中、必死に一人で頑張る飛段の形相を角都はそっと盗み見る。人生何が起こるかわからないものだ。満員電車を楽しむ日が来るとは想像もしなかったのだが。



※お題「満員電車」