ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

記憶の可視化(ss)

さくま様からのリク「キスマークを残そうとする飛段」による小話です。単身赴任するのを角都ではなく飛段にしてみました。指定から外れてしまってすみません^^;




道が川に突き当たる。飛段は吊橋をちらりと見るが、渡らずに川辺へ降りてゆき、血に浸したようなコートを脱ぐ。汚れなどは一向に気にしないが、獣まで呼び寄せる血臭は案外厄介なものだ。浅い瀬につけたコートを踏み洗いする飛段のまわりで虫が飛び、早咲きの桜がひらひらと花弁を落とす。明るい日の光がそこらじゅうできらめく。背後に残してきた光景が嘘のようなのどかさである。もっとも死人ばかりになったあの地も今は静かに鳥や虫を待っていることだろう。すすぎ終えたコートをきつく絞って河原に広げ、石に腰をおろした飛段は、太陽にさらされた己の体を眺める。相棒につけられたキスマークはきれいさっぱり消えてしまった。自分で見えるところに残せとねだられ、腕や足はもちろん胸や腹部にまで角都は痕をつけてくれたのだが、回復の早い飛段の体は数時間でまっさらに戻ってしまう。裏切り者の自分の腹を飛段は睨み、指先で皮膚を捻りあげる。確か、この場所にあった、あいつの頭がここにあってオレはそれを抱えていたんだから。アジトに残してきた相棒の頭部の感触や体の重さを思い出しながら、飛段は自分の肌をあるべき姿に加工する。羽のある吸血虫や降ってきた桜の花弁がその肩や背やうなじに吸いついたり貼りついたりして飛段の作業を補完する。思い出せる限りの痕を復元した飛段は、真上にある太陽を確認して立ちあがり、まだ生乾きのコートを羽織って鎌を背負う。もうすぐ彼岸で日も長くなってきた。幾度となく繰り返してきた痕の復元が不要になる場所と時間を目指して出発するにはいい頃合だろう。