ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

心ない落書き(ss)



夜、焚火をいじりながら、自分の生い立ちについて珍しく飛段が話をする。一番古い記憶、好きだった景色、近所の幼馴染、たわいのない(中には悪質なものもあったが)いたずら。角都は自分があずかり知ることのない相棒の過去に不快を覚え、薪を乱暴にくべるついでに、そんなくだらん話をペラペラよくしゃべれるな、と言い放ってしまう。とたんに飛段の顔に走る落胆を見て、角都は自身の失態を知る。真水に墨を垂らしたように暗く淀んでいく空気にすぐに反応できなかった角都は、それでも役に立たないプライドを懸命に捨てて、かたく閉じた表情の相棒の隣に移動する。さっきのあれ、貴様が里長の屋敷の垣根に放火した話を続けろ、それからどうなったのだ。不自然に力のこもった相棒の言葉に飛段が苦笑する。無理すんな、オレに気を使うなんて角都らしくもねぇ。本当に聞きたいのだ、話せ。今にしてみれば角都にもわかる、飛段は昔の自分を角都と共有したかったのだ、なのに角都はつまらない悋気をして台無しにしてしまった、過去があろうとなかろうと今飛段が隣にいることがだいじだというのに。ぐいと肩を抱かれてせっつかれ、飛段はしぶしぶ話を再開するが、口調はそっけない。先ほどの傷つきやすい無防備さは失われてしまったらしい。角都が汚してしまった時間はもう元には戻らない。