ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

二度と同じ地獄には(ss)



いつもはまったく気にしていない。木の葉とのできごとについても笑って話せる。けれども穴の記憶に意識が向くと、飛段は喉と鼻の奥にあっという間に湧いてくる塊に翻弄される。一度、闇夜に穴のことを口にした角都は相棒の反応に珍しく大弱りし、二度とそれには触れまいと決心したのだった。それでも時にはふとしたきっかけで飛段の前にいきなり穴がたち現れることがある。ぐっ、ぐっ、と声を詰める飛段は、自分の背を不器用に撫でる相棒に状況を説明しようとする。いつもはぜんっぜん平気なのによォ、なんつーか胸ん中に乾かないクソがあってよォ、うっかり踏むといつでも必ずくせぇっつーかそんな感じなんだよなァ、真っ暗だったこととか、痛かったこととか、ものすげー強く望んだこととか、それがダメなんじゃねーかって諦めたりしたこととかが、全部いっしょくたに乾かないクソになってて、踏むとそのとたんにプンプンにおうんだ、参るぜまったく。つっかえつっかえの説明に、角都は特に何も返さない。そのクソは決して乾くことなくにおい続けるだろうなどと当たり前のことを教えても仕方がない。角都にできるのは飛段の胸中に今後新しいクソが生まれないよう努めることぐらいなのだが、それでも自分に課したその務めだけは死に物狂いで果たすつもりだったのである。