ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

それでも結んでやる(ss)



飛段を指名しての護衛の依頼が入った。女の政治家だから見栄えを気にしたのだろう。自身は働くことなく報酬とは別に支度金まで得た角都は上機嫌で、依頼主の注文通りの装束を飛段に買い与えた。シャツ、スーツ、ベルト、靴下、靴、武器用のホルスターは問題なかったが、ひょろりと頼りない幅広の飾りひもを飛段は持て余す。ネックタイ?シャツの襟に縛るって?女のリボンじゃあるまいし、こんなのいらねーだろ。奴らの社会ではこれがないと失礼にあたる、手を抜くな。手抜きじゃなくて無駄を省けっつってんだよ、年寄りは頭が固くて困るぜ。うるさい、黙って言うとおりにしろ。うるせーのはそっちだろクソジジイ。調子に乗るな、殺すぞ貴様。やれるもんならやってみろっつーの。こんな物騒なやり取りを、角都は相棒を背後から抱き込むよ うにして飾りひもを結んでやりながら、抱き込まれた飛段はくすぐったいように息で笑いながら、互いの耳元でネチネチと交わしていたのである。次の日も、その次の日も。四日目の朝、宿の帳場に呼ばれ、日程の変更について依頼主の伝令から連絡を受けた角都が部屋に戻ると、部屋のまんなかに突っ立った飛段がちょうど襟元の飾りひもを締め終えたところだった。あ、という顔をした飛段の片手がきりりと結んだばかりの結び目をつかんで粗く崩す。なんだよてっきりどっか出かけたんだと思ったぜ、ほら、このクソひも縛ってくれよ、オレじゃうまくできねーからよォ。早口でまくしたてる飛段の耳が赤い。冷静になってみると自分たちのイチャイチャぶりがやたら恥ずかしくなってきたのは角都も同じ。