ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

嵐の日、収入、支出、そして他のもの(ss)



角都が戻ってくるぞ、とリーダーが言った。大した賞金首を獲って大儲けしたという。リーダーがオイラたちにわざわざそれを告げたのは、このところ暁が財政的に苦しかったからに他ならない。感謝して迎えろということだろう。確かにメシの質が落ちるのはまあ仕方がないとして、起爆粘土の材料を切りつめられたのにはオイラも正直参っていた。爆発できない芸術は何度も捏ね直されて乾き、質が落ち、欲求不満そのままの形となった。けれど角都のおかげでまた好きなだけ粘土を捏ねまわせる。オイラの他の者も似たような考えらしく、皆で談話室に集まり、どことなく明るい雰囲気で暁一の稼ぎ頭の帰りを待った。特に飛段は上機嫌でくだらない話を大声で語り、一人で笑って、組み合わせた両手の親指をくるくると落ち着きなく回した。ところが、金が入ったら何を食いに行くかなどとみんなで話しているうちに、急に表が暗くなり、バタバタと激しい音が聞こえだした。雹だな、とリーダーが呟く。真夏だというのに珍しいことだ。窓を見れば、いつの間にか空は真っ黒な雲に覆われ、ヒリヒリと稲光が走り、大粒の雨まじりの雹が地面に打ちつけられてはねまわっている。おおー、と今度はひとしきり天気の話で盛り上がるオイラたちを尻目に、飛段が妙に思いつめた顔でリーダーに話しかける。よく聞こえないが、どうも天気を回復させるように頼んでいるらしい。リーダーは頭を振っている。そりゃそうだ、たいした目的もなく天候を操作するわけにもいくまい。飛段はしばらく食い下がっていたが、やがて諦めたのかむっつりと黙りこみ、窓のそばに立ってじっと外を眺めた。この荒天の中を歩いてくる相棒を案じているのだろう。オイラは飛段と並んで外を見る。ひでえ天気だな。ああ。角都はどっかで雨宿りしてるんじゃないかな、きっとそうだぜ、あいつが無駄に動き回るわけがないだろ、うん。ああ。オイラが何を言っても飛段は気のない相槌を打つだけで、そのうち面倒くさそうにぷいと部屋を出て行ってしまった。あいつ自室でふてくされるつもりなんだろうと思ったオイラは、思いがけず窓の外にその飛段の姿を認めてはっとする。コートをかぶった頭を道に向け、じっと雹と雨に打たれているあいつを見て、ああ、とオイラは悟る。雨宿りなどするものか、角都はこの雹の中を歩いてここへ向かっているに違いない、なぜなら奴の相棒がああやって外で待っているんだから。そして飛段もびしょ濡れになりながら外で待ち続けるんだ、なぜなら奴の相棒が雹に打たれながら一歩一歩奴との距離を縮めてくるのだから。不意にあいつらが羨ましくなったオイラは窓から離れ、再び今夜のメシの話題で盛り上がる仲間の元へ戻った。キャベツやらエビカニやら焼魚やらみんな言いたい放題だ。おでんのばくだんも食おうぜ、うん!とオイラも声を張り上げる。もっと高いものもどんどん注文してやろう。肝心の角都は食いものどころではないだろうが、構うものか。粘土も最高級品を買おう、とオイラは心に決める。金で買える幸せを少しばかり過剰に買ったところでバチは当たるまい。