ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

野良犬(ss)



相棒とオレは狭い路地を歩いていた。背の高い家が道のすぐきわまで押し寄せていて、ふんどしのようにひょろながい空がオレたちの上に伸びている。建物の切れ目からだいだい色の夕陽が射す中、ガキどもが連れだってわあわあ喚きながら道を走ってくる。買い物籠を下げた女が行き過ぎる。仕事帰りかタオルを首にかけた男がアパートの階段を上っていく。みんなこのあたりに住んでいるんだろう。それぞれの人生に没頭していてジャシン教には間違っても入信しない奴らだ。道から外れるのも悪くないのにな、と考えながら歩いていたら隣の相棒がすいっといなくなり、慌ててきょろきょろしたら、通り過ぎたばかりの民宿から頭を突き出した相棒に、ここだ、と呼ばれた。なんだよひとこと言ってから入れよ、貴様が不注意なのだバカが、とぶつぶつやりあうオレたちを宿の主人が部屋まで案内したが、その足元について歩く犬にオレは気を引かれた。どう見ても座敷犬ではない茶色い中型の雑種。老いた主人が立ち止まると犬も止まり、主人の脚に前足をついて伸びあがると、だらりと下がった主人の手のひらを自分の頭で押し返す。まるで撫でてもらっているかのように。肥えた犬だな、と角都が言うと主人が頭を掻く。拾った犬でね、ずっと野良だったせいか何でも食うんで、野菜の皮でも何でも。その夜いろいろやったあと、いつものように角都がオレをぎゅっとしたりチューしたりするのを見ていて考えた。オレの頬なんかを飽きずにさすり、唇を舐めたりしてくる角都も野良だったのかもしれない、野良犬だったのはオレの方だとずっと思ってきたけれど。なのでオレはだるい腕を上げて角都の頭を撫でてやる。道から外れるのは悪くないとオレは本気で思っている。共に歩くツレがいるならなおさらだ。