ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

はけ口(ss)



アジトに戻ってきた飛段が、腹減ったぁトビてめーなんか持ってねえか、とカツアゲの口調で迫ってくる。可愛い後輩にせびらないでくださいよォとおれは逃げにかかるが、鎌を構えた飛段が本気で凄むので、諦めて夜食用に取っておいた稲荷寿司を渡してやる。さっさと出しゃいいんだよと偉そうに、しかしとても嬉しそうに稲荷寿司を受け取った飛段は、ポイとそれを口に放り込み、咀嚼しながら愚痴をこぼし始める。なあ聞けよトビ、今日の昼によ、角都のヤロー道端で買ったパンをいっこ、いっこだけだぜ、オレにくれてよ、これでメシにしろって言いやがんの、ケチにもほどがあると思わねえか。へー、とおれは用心深く応える。この飛段という男は一途な愚か者であり、うっかり一緒になって相棒である角都をけなしたりすると、自分の言葉を棚に上げてひどく逆上するのである。パンいっこじゃ何にもならねーっつーの、と飛段は怒り続ける。食堂とかもあったんだぜ、なのにパンいっこだ、公園のベンチで食ったんだけどすぐに食い終わっちまってよォ。せめて少しは残してくれないかな、というおれの願いもむなしく稲荷寿司が次々と飛段の口に飛び込んでいく。そうそう、パン食ってたらスズメが集まってきてよォ、体ふくらませて猛禽類みたいな目つきでオレのパンを見てやがんの、だからちょっぴり投げてやったんだよパンを、そしたら角都が無駄なことをするなって唸りやがって奴のパンを半分オレにくれたの、けどあんなんじゃ全然足んねーよ、ま、ないよりマシだけどさァ。おれは再びへーと言ってはめてもいない腕時計を眺めるふりをし、あっもうこんな時間だ、と退却をはかる。話のおもむきはよくわかった。せっかくの稲荷寿司がなくなっただけでもがっかりなのに、そのうえおかしな甘ったるいものを食わせられてはまったくもってたまらない。