ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

男の沽券(ss)



宿から外出した飛段がやけにぴったりした股引を買って戻ってきた。どう見ても女のタイツにしか見えないその一つを俺の分だと言って差し出してくる。タイツゥ?ちげーよレギンスだってェ穿いてみろよあったけーからよォ。俺はいらん、このぐらいの寒さは平気だ。やせ我慢しねーで穿いてみろってェ人生変わるぜホラホラ。言いながら飛段はさっさと服を脱ぎ、パンツ一枚になってその股引を穿き始めた。半裸になって、うほーあったけー、と騒ぐ姿はまことにあほらしく、俺はますますかたくなになる。そんな安プロレスラーのような格好ができるか。はたからズボンの中が見えるわけじゃなし何かっこつけてんだテメー、いっつも背中丸出しのやらしー服着てるくせによォ。うるさい黙れ飛段殺すぞ。だからそれをオレに言うかよ角都。いつものやり取りを経てどうやら諦めたらしい飛段は、股引を脱ぎ捨てて浴衣を引っかけると、ケッ、オレぁ風呂行ってくるぜ、と言い捨てて部屋を出ていった。俺はしばらく様子を見、飛段が戻ってこないと確信すると、奴が丸めていった股引を手にとってみた。一度穿かれたそれは飛段の下半身の形にふくらんで俺の手からぶらさがる。奴のへそから下が手の中にあるようで妙に興奮してきた俺は、急いでズボンを脱いで相棒の股引を穿いてみる。暖かい。つい先まで飛段がこれを穿いていたのだと思うとたまらなく気持ちいい。しばらくうっとりした後、脱いだそれを元のように丸めて投げておくと、風呂から戻ってきた飛段が、せっかく買ってきてやったのによー、とぼやきながら再びそれを拾って穿きこむ。奴が穿いて俺が穿いてまた奴が穿いたわけだが、俺が穿いたことを奴は知らない。何だか背徳的な感じがして楽しい。だが、誤解がないよう断言しておくが、あんなものを穿く気はない。それとこれとは話が違う。あんなバレエダンサーみたいなしろものを身につける奴の気持ちなど、俺にはさっぱりわからない。