ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

新年3(ss)

※第三者視点です。



お台所のかたづけをおえてフロアにもどったとき、さっきそうじをしたばかりの席にお客さんがいたので、わたしはびっくりして立ちどまりました。お客さんの相手をするおねえさんたちは帰ってしまいましたし、食べものもお酒もかぎのかかった冷ぞうこの中です。もう閉店なのにどうしよう、とこまってしまったわたしのかおを見て、電気も半分しかついてないお店のなかにすわっていたその人は、わりいなねえちゃん少し休ませてくれよ、といいました。オレたちよそに行くところなんだ、いつもはのじゅくするけどきょうは雪だろ、すげーさむくてよォ、それにオレはとちゅうでちょっとねたけど相棒はずっと歩きっぱなしだったから。いわれてよく見たら、もうひとりのお客さんがいすの上に長くなってねていました。もうお店はおしまいですが、お客さんはだいじにしなければなりません。わたしはおねえさんたちのひかえ室からもうふを二まいとタオルをもってきてお客さんにわたし、ストーブをつけて、ポットにのこっていたお湯でお茶をいれ、あとでこっそり食べようと思ってとっておいたお客さんたちの食べのこしも、できるだけきれいにならべ直して出しました。お客さんは、ねえちゃんチビなのによくはたらくなァといってお茶をのみ、いろいろめずらしい話をしてくれました。お客さんたちはせかい中をたびしているのだそうです。いいなあわたしもどこかに行きたい、うみを見たいし山も見たいし川でつりもしたいし馬にものりたい、といったら、お客さんはわらって、ぼんのうだらけだな、といいました。きっとじょやのかねがなっていたからでしょう。お客さんにもぼんのうがあるかきいてみたら、ちょういっぱいあるぜェ、といばって答えてきたのでわたしもわらってしまいました。まあそのほとんどがあいつがらみだけどな、とお客さんがもうひとりのねているお客さんをゆびさしてひそひそいうのもなんだかとてもおかしかったのです。あけがたになってお客さんたちは帰りましたが、のこりものだからお代はいらないというわたしに、ずっとねていたお客さんが、じゃあおとしだまにとっておけと千両くれました。ストーブの油がへっていたとお店の主人におこられたとき、いつもならかなしくなるのに、なぜかきょうは平気でした。ずっとずっといやなことばかりになれてしまっていたわたしにも、まだぼんのうが、やりたいことがあるのだとわかったのですから。それに千両は大金ですしね。