ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

不意を食らう(ss)

※「免罪符」の角都視点です。読みたいと言って下さったこあん様へ。



かつて集落が点在していたその山道には当時のなごりの植栽が見られ、俺はそこを通ることを楽しみにしていた。特に、湾曲した道の際によじれて立つ梅の古木はどの方向から見ても良い姿で、今日は花もつけており、その佇まいをいつもよりもゆっくりと歩を進めながら俺は愛でていたのだが、よりによってそんなときに突然俺の相棒が奴自身の鬱憤をぶちまけ始めたのだった。現在の組織にいたのでは宗教の務めが満足に果たせない、抜けて単独の身となり布教に集中したい、と断罪の口調で相棒は言った。表現は幼かったが、そこに思いがけない本気を嗅いだ俺は言葉を返せず、顔を赤くして言いつのる相棒とその背後の美しい古木をじっと見ていた。ひとしきり喚いた相棒は激したのかしまいには泣き始め、不明瞭な声で、ごめん、ごめん、と唱えたが、俺は動くことも話すこともできずにいた。こんな穏やかな日、このような場所で、こんなことを言い出す飛段はなんという残酷な愚か者だろう。今後この風雅な山道を通るたびに俺は投げつけられた言葉を反芻し、はれぼったい赤い顔を心に浮かべ、安堵を上回る恐れに身を焼かれねばならないのだ。このバカのせいで。