ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

体があるだけで(ss)



力比べのように互いにしがみつきあいながら、抱きしめる体があるだけでこんなに愛しさが募るものかと俺は考える。今、力比べをしている男が現れる前には忘れていたが、考えてみれば遠い昔に誰かの体を抱き、抱かれたことが俺にもあった。父。母。仲間。俺の腕に墨を入れた男。あっぱれな裏切りを貫いた女。幾度も幾度も反芻してそのたびに血が噴き出すようだった故郷の記憶、呪いと恨みと怒りのつまったそれの中から、彼らの体を愛しいものとして俺は思い起こす。この俺に、このような日がやってくるとは。抱きしめる体があるだけで。