ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

別に悪い言葉じゃありませんが(ss)



ポルノ映画館で追っ手をやり過ごしているとき、飛段が映画の台詞に興味を示す。なあ角都、モチハダってなんだよ。追っ手の気配に集中している角都は空気を読まない質問に苛立つが、なあなあ、と重ねて聞かれて面倒くさくなり、さわり心地のいい肌のことだ、と簡単に答えてその場をしのぐ。そんなことをすっかり忘れていたある夜、道端で夜鳴きそばを啜っていた角都は隣に立つ相棒から、ゆうべも思ったんだけどよォ、お前ってホント餅肌だよな、と言われてむせてしまう。それは違うと訂正しても相棒は、自分のこたぁ案外わかんねーもんだぜ、などと返すばかりで発言を改めない。説得をあきらめた角都は、それでも自分の名誉を守るため、そんなことをよそで言うんじゃないぞ、と何度も念を押す。もちろん飛段はすでにそれをあちこちでしゃべりまわっているのだが、角都が念を押したせいでその後その話には「絶対に他の奴に言うなって言われてんだけどよォ」という枕がつくようになる。角都は懊悩する。里を抜けて以来己のためだけに悪辣に生きてきた自分がこんなつまらぬことに踊らされるとは、人生は終わる瞬間まで何が起こるかわからない。