ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

見て、聞いて(ss)



強すぎる陽射しから人々を守るため、不規則に丈高い壁をめぐらせたその町は迷路のようでまったく見通しがきかなかった。方角をつかもうと鉄塔に登った角都がなかなか降りてこないので、待ちくたびれた飛段も錆びた鉄梯子をよじ登る。おっせーよテメー。押すなバカ危ないだろうが。言い争いながらも二人は互いに抱きつくようにして狭い足場から世界を見る。険しい高台の上に思っていたよりも大きく広がる町、土に緑色の田畑、放牧されている家畜、黄色い花が帯のように咲いている川べり。あれを見てみろ、と角都が宙を指す。白いものが見えるだろう、川の果て、あの鉄塔から右に握りこぶし一つ離れたところだ、見えるか。きょろきょろしている飛段の頭に手を添え、あれは海だ、と角都が教える。ここから二百キロはあるだろう、けっこう見えるものだな。ふーんと返事をして、飛段は自分の片耳をふさいでいる相棒の手をつかみ、そのまま白い海を見つめる。相棒の手のひらにふさがれた片耳から海の音が飛段へ流れ込む。二百キロのかなたから。