ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

独語・押しかけ夜ガラス8(trash)

カラス話、尻切れトンボですがこれでおしまいです。最後に少し言い訳を書きました(^^ゞ読んでくださった方、本当にありがとうございました。


<押しかけ夜ガラス8>

 全国のニュースで放映されたんだからカラスが死んでいたところは大騒ぎになっているだろうと思っていたんだがそんなこともなかった。というか、どこがその場所だかまったくわからない。町も雨も夜も嫌いじゃないが三つ合わさると厄介なもので、オレはいろんな汚れでヌルヌルの暗い路上をうろついた挙句、例の料亭に頭を突っ込んでカラスについて訊いてみたが、露骨に迷惑そうな顔をされただけだった。しかたなく近くのコンビニに入ってビニール傘を買い、レジのおばちゃんに尋ねると、今度は多すぎる情報が降ってきた。ざっと端折るとこんな感じだ。緑の泡を吹いて死んでたんだって、変な病気かもしれないね、あそこにもあそこにもあそこにもあそこにも死んでて触っちゃった人は手を良く洗えって保健所の人が言ってたよ、でもあの店の誰々さんは触っちゃった、隣の店の誰々さんも、毒餌を撒いたんじゃないかっていう噂もあって、保健所の人ははっきり言わなかったけど、えっ死んだカラス、あれは保健所の人が持って行ったよ、保健所知らないの、あそこに小学校あるでしょあれの裏、二階建てで門があって、今日はまだ人がいると思うよ、行けばわかるよ。
 言葉の洪水みたいなおばちゃんから逃れて店から出たオレはその足で保健所へ行き、さんざん怪しまれながらもカラスの死骸を見せてもらうことに成功した。台車で運ばれてきた大きなビニール袋に黒いものがたくさん入っている。ゲロを吐きたくなった。この中にキラキラしたものが好きな角都がいるかもしれないなんて。オレの知ってるカラスがいなくなっちゃってと言ったら相手は変な顔をしたけど、それでも「そうですか」と言ってくれた。死骸に触らせてはもらえなかった。そりゃそうだ、病気にしても毒にしても触っていいもんじゃないだろう。オレはビニール越しに中をしげしげと見たがやっぱりみんな同じにしか見えず、しかも死んでるからなおさらわけがわからない。
 保健所から出たオレは泣きたいような気分で、それでも諦めきれずにしばらく道端の植え込みの中なんかを探して歩いた。歩きながらいろんなことを考えていた。生きること、死ぬこと、角都のこと、オレのこと、沼へ入ったじいさんのこと、平等と不平等、苦しみと救いと解放のことなんかを。そして思った。必ずやってくる死の前で生きていくってとてもすばらしくていとしいことなのかもしれない。だって昨夜も角都は薄く切ったアンキモをうまそうに食っていたんだ。生きるってそういうことなんじゃないのか。
 深夜、人通りがなくなると道も暗くなる。また明日出直すことにしてオレは家に戻ったが、途中もしょっちゅう車から降りて角都を探したりしたから帰りついたのは本当に遅い時間になった。そしたら玄関前に角都が腕組みして立っていた。逆光で顔が見えなかったけどものすごく怒っていた。
「俺が少し留守にしただけでこのありさまか。電気もテレビもつけっぱなしで鍵も掛けずにどこをほっつき歩いていたんだ、メシはもう冷めたぞ」
 テメーこそどこ行ってたんだよとオレはわめいた。声が裏返るし鼻水は垂れるしでひどくみっともないがなりふり構っていられない。近寄ってきた角都がこっちの腕をつかんで家へ入れようとするが、それを振り払ってオレはわめき続ける。今言わせろ、後でなんてだめだ、せっかくまた角都に会えたんだから言いたいことは言えるときに言わなきゃならないんだ。




※S(=そ)様に励まされて書いて参りましたカラス話、このあと角都を独占したい飛段が黒い服を焼き捨て、喜び半分・相手の可能性を奪った後悔半分でそわそわしていると、目を覚ました角都が服なんか関係なくさっさとカラスになって朝の見回りに行ってしまうという肩すかしで終える予定でしたが、なんだか完全に蛇足ですのでやめました。そんなわけです、すみませんS様!キラキラ好きの角都に飛段が安物の指輪をプレゼントしたり、沼に入っていった偏屈じいさんの霊がやってきて二人の邪魔をしたり(彼が戻ってくるという発想は当方にはありませんでしたよS様)、ほかにもいろんなことを経験しながら二人は生きていくんだと思います。そうそう、恩返しなら「この襖を開けるな」ネタも必要ですよね。当然開けちゃう飛段は角都の秘め事を見てしまい、「角都のヤローオレの写真見て何やってんだ」「貴様、よくも見たな」「アッー」という流れでしょうか。裏で不埒な話を書いたのでこちらでは控えましたが、こんな話でも書いていてとても楽しかったです。角飛ラブ!