ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

夏を惜しむ(ss)



風が涼やかになった。広葉樹の葉は色を変え、日が暮れれば秋の虫がやかましく鳴き騒ぐ。なのに季節感のない阿呆な相棒が淵へ飛び込んでしまったので、角都は「先に行くぞー本当において行くぞ―」と脅しながら、しかたなく歩をゆるめる。じきに水から上がってきた飛段は裸のまま相棒へ近寄り、相手の襟に濡れた手を突っ込んで幼稚な嫌がらせをする。角都は知らんぷりで歩き続けるが、うるさくまとわりつく手に頭巾を奪い取られると、いきなり相手へ向き直って冷たい蝋のような体をつかまえ、肩に担いで藪の中へ入っていく。飛段が大声でわめいて笑う。よく晴れた空には描いたような雲が飛んでいた。空だけ見れば夏のようだった。