ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

私を忘れないで(ss)



角都と飛段はある大名の母親の護衛を請けた。後を継いだ子に疎まれ、人里離れた隠居所へ送られるのだという噂だったが、いまだにたいそうな金と力を握っており、件の隠居所もなまじな城よりもよほど立派なものであった。道中で一行は襲撃を受けたが、飛段の儀式でその場を乗り切った。黄色い絹の帳のかげからそれを見ていたのだろう、枯れた野菜のような小さな老女は目的地へ着くと飛段を輿のそばへ呼び、儀式について尋ねた。あれの範囲や期間に限界はあるのか、つまり血を取られた者が時を経て遠くへ移動してもお前が儀式をすれば相手を殺せるのか。おうよ、と飛段が答える。ジャシン様の力はあまねくすべてのものに及ぶからな、どうしたって逃げられやしないぜ。熱を込めた布教を老女は聞いていたが、肝心のジャシンのくだりには触れることなく、お前にとっての体とはどこまでなのだろうな、と呟き、親指ほどの小瓶を渡してよこした。わしの血だ、暇つぶしにでも使え、もう下がってよい。わくわくと待っていた角都は小瓶を見たとたんに渋い顔になる。宝石でも拝領しているのかと思ったがとぼやく相棒をよそに、飛段はもらったばかりの小瓶を道端に投げ捨てる。いいのか。いーんだよ、死にたがりを殺したって面白くもなんともねえ。それだけではなかろうとさすがに角都は思うが、それを飛段へ説明するのも面倒なので放っておく。