ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

ホスピタル(ss)

「現在地」「帰還」「物理的には可能ですが」の続きです。




飛段がぼろぼろだった時期、角都は常にそばについていた。単純に嬉しかった飛段は傷んだ体を開こうとしたが、相棒は手を出してはこなかった。後でわかったことだが、当時は角都もかなり不調であったらしく、したくてもできなかったのかもしれなかった。角都はただベッドのわきに座り、給餌し、歪んだ縫合をやりなおし、飛段がまき散らす汚物を片付けた。傷はみるみる癒えるものの失われた部分の再生にはそれなりの時間がかかったし、狂った位置に詰め込まれた内臓のせいで吐き戻してばかりいた不快なはずの日々を、飛段は概ね満足して過ごした。望めば角都は同じベッドに寝てもくれた。自分に向いて横たわる相棒の体が描く弧に、自分も背を丸めて卵のように収まりたいと飛段は願ったが、いまだふさがらない縫い目から内臓が覗く不安定な体はそれを許さず、飛段は置かれた物品のように転がったまま時々片手を伸ばして相棒に触れることで良しとしなければならなかった。ある夜、自分を探ってきた手を握った角都は、しばらくそのまま何かを考える風情だったが、やがて半身を起こすと相棒の上にかがみこみ、どうでもよさそうにキスをした後、木の葉との戦いについてどこがまずかったと思うかと真顔で訊いてきた。ハァ?てめーキスしといて何か他に言うことはねーのかよ。うるさい、質問に答えろ、お前は今回のことから何を学んだのだ。相棒のまじめな口調に飛段はしぶしぶ頭を使った。えっと、そうだな、やられる側にとっても半殺しはダメだってことがわかったぜ、ありゃ非人道的だ、やっぱジャシン様はさすがだな。角都は呆れたように鼻を鳴らした。バカめ話にならん、お前は俺たちが初めて会った時のままだ、きっとこれからも変わらんのだろう、いつか俺が殺してやるその日まで。計算されたものではなかったろうが、飛段を本当に治癒させたのは介護ではなくてその言葉なのかもしれなかった。それをオレに、と言いかけた返答は途中でふさがれてしまったのだけれど。