ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

やれるのはお前ひとり(ss)

※余談ですが、「黄金温泉」というのは本当にあるそうです。山形県山梨県に。いつか行ってみたいと思いつつ。



崖下に追い詰めた相手が自爆した。当初からそのつもりだったのだろう、爆発は連鎖し、岸壁は大きく崩れて落石が谷間を埋めた。たまにこういうことがあるので角都も飛段も死を恐れない者を嫌う。死なない彼らにとってこれは手間が増えるだけの厄介ごとであり、賞金の元になる死体も失うからである。体を硬化した角都はともかく、飛段は鋭い岩片に四肢を砕かれ押しつぶされてしまう。すべてが静かになってから、飛段は砂っぽい暗がりで、あーあぁ、と間抜けに嘆く。こりゃ面倒だなァ、てめー大丈夫かよ角都。少し間をおいて、怪我はない、と遠くから声が上がる。貴様どこにいる。ここだ、ここォ。よくわからん、何かしゃべり続けていろ、今行く。なので飛段は「ここから脱出したら自分がしたいこと」という主題で独り言を言い続ける。温泉宿に泊りたい、この暑さだから爽快感のある炭酸泉がいい、そうだ黄金温泉という場所があるそうだ、冷たい炭酸泉があって飲泉もできるという、名前も角都向きだしそこに泊りに行こう…。たまに咳きこみながらつらつらと話していると、妙なバランスをもって積み重なった落石のすきまから、ずるり、と音を立てて何かが滑り込んできた。それはつぶされた飛段の体を這いまわって状況を把握すると、飛段の胸元に位置取って、顔の土を払い始めた。あいつの左腕だ、と飛段はすぐに悟る。角都が心臓の一匹を寄こしたのだ。先ほど声が聞こえた方角からは岩を砕く重い音に混じって聞えよがしなぼやきがかすかに聞こえてくる。役立たずの相棒と組むとろくなことはない、頭脳労働も力仕事もやるのは俺一人で、相棒は暢気に寝転がって温泉に入りたいなどと抜かす、まったく困ったものだ。皮肉な口調とは裏腹に左手は丁寧に飛段の眼窩をなぞり、鼻梁を確かめて、親指で唇に触れながら他の四指で頬をなでる。確かに角都は大変だよなァ、と飛段は相手の意見に深く賛同する。片腕を飛段に寄こし、もう片腕で岩を砕き、飛段の悪口を言い、同時に飛段をあやさなければならないのだから。飛段からの見返りはないのに。その上飛段を助けだしたらその体を縫い合わせ、それから黄金温泉へ行って宿泊し、料金まで払わなければならない。本当に難儀なことだ。