ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

あふれる(ss)



飛段が、おいちょっとこっち向けや、と凄む。いくらドスの利いた声を出してもシーツの上で裸で唇を尖らせて言うのだから怖くもなんともない。同じく裸で腹這いになり愛蔵の本を読み始めている角都は、さっきまで自分が舐めまわしていた隣の男に目をやる。なんだ、と返す声はいかにも面倒臭そうだが視線は本に戻さない。お前さー自分が満足したらおしまいって、そりゃねーんじゃねえ?貴様も満足したろうが。そーじゃなくてさ、せっかく二人でいんのにテメーだけ本読んでたらオレがつまんねーだろ。フン、と角都は鼻を鳴らして目を本へ戻すが、それでも片腕を伸ばして飛段の頭を撫でてやる。飛段はしばらくおとなしくしているが、ページを捲るために角都が腕を引き戻そうとすると、すばやくそれをつかんで自分の頭にとどめ置く。放せ。ダメダメもっとオレに優しくしろって。わがまま言うな。わがままじゃねーよ、オレぁもっともっと欲しいのに我慢してるんだぜ。角都はため息をつく。お前は要求ばかりしているが俺の我慢にも限度がある、だいたい優しさをそんなに一気にお前につぎ込んだら溢れて無駄になるだろう、俺は無駄なことは嫌いだ。抽象的な話を苦手とする飛段は眉を寄せて少し考えるが、すぐに、無駄になんかしねーって、と言い返す。もし多すぎて溢れたらオレの心ん中にためとくから大丈夫、これっぽっちも無駄にゃしねーよ。言い負かされた角都は諦めて本を閉じ、もう片腕も相棒に向けて伸ばす。そして、二人の為すこととどまることなく、想うこと尽きることなく。