ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

センチメンタリズム(ss)



角都はその男といくどかやりあったことがあった。腕の立つ忍びだったのだが、今日はあまり手ごたえがない。こいつも老いたな、と自分のことを棚に上げて角都は考える。硬化したこぶしで腹を打ち抜かれた男は地面に膝をつき、体の前面の穴を片手で押さえ、アー、と言った。声を出すたびにおびただしい血が地面へ流れた。まるで言葉の分量を血で測るように。あのな、おとといな、ずっと組んでいた犬が死んでな、あいつ足がのろかったから、まだあのへんにいると思うんだわ。そう言って男は薄い雲が貼りついている早朝の空を振り仰ぐ。あいつにまた会えるんなら悪かねえなあ、カカカカ。そのままころりとひっくり返り、見ればもうこときれている。いきなり妙な話をし始めて命乞いでもするのかと待っていた角都は、なんだか肩すかしを食らったような気持ちになる。少し離れて殺し合いを眺めていた飛段は、角都に歩み寄ると、テメェみてえな無神論者にはこーゆーのわかんねえんだろうなあ、と放り投げるように言って相棒の肩に片手を置いた。いいさ、わかんねえまま生きていきゃいいんだテメェは。