ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

引き留めるもの(ss)



なかなか寝つけず捻転していた夜、浅い眠りの中で妙な夢を見た。俺は緑灰色に透けた床の上に立っていた。天井もガラスのように透けている。壁はない。床と天井がどこまでも続き、果ては緑色のくらがりに消えている。ぐるりと見回しても同じ光景。ぼんやりとした光が上から届く。風もない。あわせ鏡の中にいるようだ。幻術を疑いチャクラを巡らせようとしたが、肝心のチャクラが感じられない。技も発動せず、その時になって気がついたが、どうも俺の体内には心臓が一つしかないらしい、普通の人間のように。腑に落ちないことばかりだが、まずはここがどのような場所なのか知ることが必要と考え、俺はふところから帳簿を取り出すと紙を細長く切り取り、それを足元に置いた。紙の一方が向いている方向へ一直線に進む。そして元の場所へ戻り、逆方向へ進む。また戻り、紙を少し回転させ、そちらへ歩く。その一帯を歩きつくすと別の地点に別の紙片を置き、同じことを繰り返す。次第にじんわりとした恐れがわいてくる。どこまでも床と天井だけの空間、物理的にこんな構造物が成り立つわけがない。場所だけではない。俺自身もう長時間をここで費やしているというのに、腹も減らず喉も乾かず眠くもならず疲労も感じず排泄欲すらない。目に見える変化は切り取られて減っていく帳簿の紙だけ。不意に我慢がならなくなり、俺は走り出す。何か、何かないのか、俺以外の何かが。どこまで走っても見えるものは変わらず疲れることもない。これではまるで不死だ、と考えて俺はぞっとする。いや、完全な不死などありはしない、俺は死ねるはずだ、幸いクナイが隠しに入っている、こんなことを終わりにしたいのなら死ねばよい。その考えにすがりつくように俺は武器を取り出し、首に当て、ためらう。ここから逃れるために死ぬのは良いが、どこかに不死の男を一人残して、俺だけ楽な道を行っていいものだろうか。