ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

寒波(ss)



いつものように野宿をしていた角都と飛段は、夜更け、ほぼ同時に目を覚ました。胎児のように丸くなっていた飛段が苛烈な寒気のあまりフグゥと変な声を出す。焚火は熾してあるが炎に触れるばかりに近づかないと熱が感じられない。互いに言葉を交わさないまま角都は小さく硬くなっている飛段を引き起こし、最寄りの集落へ歩き始める。アタッシュケースを持つ手が噛みつかれているように痛む。チャクラ調節のへたな飛段に至っては全身の感覚が麻痺しており、こてこてと転ぶ有様だ。やっとたどり着いた宿は文字通りの木賃宿で風呂すらなかったが、壁一枚で守られた部屋は明らかに外より暖かい。霜が降りたコートを脱ぎ、小さな火鉢のわきにある一組しかないせんべい布団に潜り込みながら、飛段は鼻で息をしてももげそうにならない環境に心から感謝する。色気ではなく寒さから角都は飛段の接触を拒まず、それをいいことに飛段は自分の片脚を角都の腿の間に割り入れる。煌々と月の光が射し込む小さなガラス窓に霜の花が咲き始めている。無防備な頭を大きな掌で守られた飛段は相手の首元に顔を埋め、ようやくとろとろと眠り始める。相棒の呼吸が緩やかになるのを感じ取りながら、角都も瞼を下ろす。浅い眠りの表層で、ひりひりと身を切る寒気の中、二人の前に静かに広がっていた月光に白く輝く大地の情景を角都は思い浮かべる。意のままにはならないからこそあれは美しいのだろう。腕の中のこれもまた。